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近年、自然災害の激甚化や感染症の世界的流行、サイバー攻撃の増加など、企業を取り巻くリスクは多様化・深刻化の一途をたどっています。こうした緊急事態に直面した際も、重要な業務を継続・早期復旧するためのBCP(事業継続計画)対策は、企業経営において欠かすことのできない要素となりました。
本記事では、BCP対策の基礎から実践的なポイントまで、企業が取り組むべき内容を詳しく解説していきます。
目次
BCP(Business Continuity Plan)対策とは、地震や台風などの自然災害、感染症の流行、システム障害など、予期せぬ緊急事態が発生した際に、企業の重要な業務を継続・早期復旧するための計画のことです。
近年、首都直下型地震や南海トラフ地震の発生確率が高まっているほか、気候変動の影響による大型台風や集中豪雨も増加傾向にあり、企業活動への影響は年々深刻化しています。
また、新型コロナウイルスのようなパンデミックは、従来の災害対策では想定していなかった長期的な事業の中断をもたらしました。さらに、デジタル化の進展に伴い、ランサムウェアなどのサイバー攻撃による被害も急増しており、企業の存続にとって脅威となっています。
こうした多様化・複雑化したリスクから企業を守り、従業員の安全と事業の継続性を確保するためには、実効性の高いBCP対策の策定・運用が不可欠となっています。特に、複数のリスクが同時に発生する複合災害への備えも、今後は重要な課題となるでしょう。
企業が直面する可能性のある緊急事態は、大きく自然災害リスクと人為的リスクに分類されます。
以下の表に、考えられ得るリスクの種類と具体例をまとめました。
近年では、リスクの複合化・多様化が進んでおり、一つの災害が別の緊急事態を引き起こすケースも増えています。例えば、地震による建物損壊が火災を誘発したり、台風での浸水被害がシステム障害につながったりするケースです。
また、時代の変化とともに新たなリスクも登場し、デジタル化の進展に伴うサイバー攻撃の高度化や、SNSの普及による風評被害の拡大速度の加速化などが挙げられます。特に注目すべきは、一度発生すると企業の存続さえも脅かす、地震・津波・パンデミックレベルのリスクの増加です。
各リスクは、発生する可能性(発生頻度)と、発生した際の影響度から評価する必要があります。例えば、大規模な地震の発生頻度は比較的低いものの、発生時の影響は甚大です。一方、風評被害は自然災害などに比べて発生可能性が高いと考えられますが、内容やその後の対応によっては事業継続ができなくなるほどの影響がない場合もあります。
このように、企業は自社を取り巻く様々なリスクを整理・評価し、優先順位をつけて対策を講じていく必要があります。特に、発生時の影響度が高いと考えられるリスクについては、事前の備えが企業の存続を左右するといっても過言ではありません。優先的に対策を検討すべき内容です。
BCP対策は単なる計画書の作成で終わらせてはいけません。災害などの発生時、実際に機能する実効性の高いものである必要があります。
例えば、自然災害が発生した場合、まず従業員とその家族の安全確保から始まり、その後、建物や設備の被害状況を確認し、事業再開への道筋を立てていくのが一般的な流れです。
しかし、このプロセスに付随する細かな対応の内容は、企業によって大きく異なります。製造業であれば生産設備の復旧が重要になりますし、IT企業であればデータセンターやネットワークの確保が優先されます。そのため、自社の事業特性や規などを考慮した実践的な計画が不可欠です。
また、実効性のある計画には、現在の組織体制に合わせた実現可能な内容や利用できるリソースの把握、行動手順の明確化、施設や備品など物理的な対策が求められます。さらに、人命最優先の原則を徹底しながら、重要業務の継続性確保やステークホルダーへの配慮も必要です。
計画の策定後は、定期的な訓練と見直し、従業員教育の実施、新たなリスクへの対応など、継続的な運用・改善の仕組みを組み込むことで、より実践的なBCP対策となるでしょう。
事業継続計画であるBCP対策は、有事での事業継続能力が向上するだけがメリットではありません。
企業にとってBCP対策を行う5つの大きなメリットは、以下のとおりです。
これらについて、詳しく見ていきましょう。
緊急時における初動対応や意思決定の迅速化や、事前の対応手順の明確化によって、パニックに陥ることなく冷静な判断などが可能となります。特に、災害発生直後の混乱した状況下でも、準備された手順に従った行動が大きな強みとなるでしょう。
また、重要業務の特定や優先順位付けにより、限られたリソースの効率的な活用を実現。さらに、定期的な訓練による従業員の危機対応能力向上は、組織全体のリスク管理レベルを高めます。結果として、想定外の事態にも柔軟な対応が可能となります。
事前の備えは、災害時の物的・人的被害を最小限に抑える効果があります。建物の耐震補強や避難経路の確保、防災設備の整備などによって、従業員の安全を確保しつつ、重要な設備やデータの保護が可能となります。
事業停止期間の短縮は、売上減少や顧客離反などの二次的な損失の防止につながるでしょう。加えて、保険料の削減や融資条件の優遇など、財務面でのメリットも期待できます。
適切なBCP対策によって、取引先や株主からの信頼向上が見込めます。BCP対策の有無は取引先選定の重要な基準となっている場合もあるため、継続的な取引関係の維持に欠かせない要素といっても過言ではないでしょう。
また、従業員の安全確保や地域社会への貢献は、企業としての社会的責任を果たすことにもなります。金融機関との関係においても、BCP対策の充実度は融資判断や条件に影響を与える重要な要素であり、資金調達面での優位性にもつながります。
BCP策定プロセスを通じて、自社の強みや弱み、重要業務の明確化が可能です。事業継続に必要な経営資源(人材、設備、資金など)の洗い出しによって、現状の課題が明確となり、より効率的な資源配分を実現できます。
事業の依存関係や重要度の可視化は、平常時の経営戦略立案への活用も可能です。加えて、業務プロセスの見直しから、無駄の排除や効率化のヒントが得られ、平常時の業務改善への活用も期待できます。
BCP対策の一環として防災設備を充実させることは、地域の防災拠点としての機能強化につながります。非常用電源設備の導入や備蓄倉庫の整備、避難施設の設置など災害に備えた設備投資は、自社の事業継続だけでなく、同時に地域全体の防災力を高めます。
特に、災害時の避難施設は、従業員の安全確保はもとより、地域住民の一時避難場所としても活用できる重要な社会インフラとなるでしょう。
BCP対策として企業が実施すべき、それぞれのリスクに対する具体的な取り組み事例をご紹介します。
リスクとして考えられ得る、自然災害・感染症パンデミック・サイバー攻撃への対策事例は以下のとおりです。
【自然災害への対策】
【感染症によるパンデミックへの対策】
【サイバー攻撃への対策】
これらの対策は、それぞれ独立して実施するのではなく、相互に関連付けて総合的に推進することが重要です。
例えば、データのバックアップは自然災害対策とサイバー攻撃対策の両方に有効であり、テレワーク環境の整備は感染症対策だけでなく、災害時の事業継続にも役立ちます。各リスクへの対策を効果的に組み合わせることで、より強固なBCP体制の構築が可能です。
発生時に甚大な被害が考えられる自然災害時のBCP対策について、効果的な備えをするための2つのポイントを解説します。ポイントは、以下のとおりです。
詳しく見ていきましょう。
災害時には、従業員の安否確認から被害状況の把握、取引先との連絡まで、正確な情報収集が不可欠です。特に、通信インフラが被害を受けた場合に備え、複数のモバイルバッテリーや衛星電話、トランシーバーなどの代替通信手段の確保が重要となります。
非常用電源からの充電設備整備や、定期的な通信機器の点検も欠かせません。また、緊急連絡網は人事異動などに合わせて定期的な更新が必要です。これらの手段を組み合わせることで、確実な情報収集と連絡体制を構築できます。
企業活動の継続において電力は、最も重要なインフラだと言っても過言ではありません。災害停電経験者の声からも、電源確保の重要性が指摘されています。
ある企業が行った「長期停電中に準備・所持しておけばよかったと後悔したものは?」という調査に対して、長期停電経験がある人は以下の回答をしています。
(参考:Panasonic「防災意識を調査! 災害停電経験者から災害時の備えのヒントを学ぶ ―もしもの備え白書―」)
企業活動において電力は、まさに事業継続の生命線です。停電が発生すると、パソコンやサーバーなどのIT機器は完全に機能を停止し、業務システムへのアクセスが不可能となります。製造業においては生産ラインが停止するだけでなく、品質管理システムも機能しなくなり、事業活動が停滞してしまいます。
さらに、スマートフォンやタブレットなどの携帯端末の電池が切れてしまえば、取引先との連絡や災害情報の収集も困難となり、事業の復旧に向けた判断さえままならない事態となりかねません。
電力の確保は、あらゆる事業活動の基盤であり、BCP対策における重要課題の一つといえるでしょう。
自然災害やパンデミック、サイバー攻撃など、企業を取り巻くリスクは年々増加し、その影響も深刻化しています。しかし、実際に災害が発生してからでは、効果的な対策を講じることは極めて困難です。事前の備えなく災害に直面した企業の多くが、事業の継続や早期復旧に苦慮し、中には廃業に追い込まれるケースも少なくありません。
まずは自社にとって重要な業務の把握から始め、できることから段階的にBCP対策を実施していくことが重要です。特に電力の確保は、事業活動・継続の基盤となります。
適切な設備の導入で、より実効性の高いBCP対策を実現できます。企業の未来を守るため、今日からBCP対策を始めましょう。